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バレンシアガ財布メンズ2012編集

 なぜか離《はな》れた場所からみちるの声が聞こえた。 「えっ」  声の聞こえた方を見ると、十メートルほど離れた石段の近くにみちるが立っている。佐貫は混乱し始めた——いつのまに西尾《にしお》は俺《おれ》から離れたんだろう。いや、違う。さっきまで俺もあそこにいたはずだ。  ふと、佐貫は自分のすぐそばに鐘楼《しょうろう》があること気づいた。はっと振り向くと、すぐ目の前に黒い蜥蜴《とかげ》の顔がある。一瞬《いっしゅん》のうちに佐貫の全身が凍《こお》りつく。動いたのは佐貫たちの方だった。この怪物の能力は、ただ自分の体を移動させるだけのものではない——。 (獲物《えもの》を引き寄せることもできるんだ)  かぱっと蜥蜴の口が大きく開いた。今までの人生でこれほど唐突《とうとつ》に死と向かい合ったことはなかった。暗い洞《ほら》のような口の中で、二股《ふたまた》に分かれた舌が別の生き物のように蠢《うごめ》いていた。ゆっくりと蜥蜴の両顎《りょうあご》が佐貫の視界を覆《おお》い尽くしていく。彼の方も呆然《ぼうぜん》と口を開けたまま、ありえない光景をただ見守っていた。  ふと、どこかからかすかな水音が聞こえた。鼻先がぶつかるほどの距離《きょり》まで迫っていた蜥蜴の口が、急速に遠ざかっていった。誰《だれ》かが佐貫と葉《よう》をかばうように彼の前に立つ。 「……裕生《ひろお》?」  彼の友人がそこに立っていた。長い距離《きょり》を走って来たらしく、Tシャツの背中は汗に濡《ぬ》れて息をしている。なぜか彼の手には栓《せん》の開いたガラスのビンがあった。  佐貫《さぬき》たちから離《はな》れた怪物は、苦しげに身を震《ふる》わせていた。黒いうろこに覆《おお》われた背中から、しゅうしゅうと焼けただれているように煙《けむり》が上がっている。裕生は無言で怪物の方へ走っていくと、怪物に向かって瓶を大きく振った。わずかな黒い水滴が怪物の体に飛び散っただけだったが、水滴に触れたところからさらに煙が噴《ふ》き出す。  どうやら、裕生はその瓶の中身を使って佐貫たちを助けようとしているらしい。とどめとばかりに裕生が瓶を振り上げた瞬間《しゅんかん》、ますます激《はげ》しく身を震わせていた怪物がふっと姿を消した。  裕生はしばらく確《たし》かめるようにあたりを見回していたが、やがて佐貫と葉《よう》の方へ戻って来た。 「あいつ、死んだのか?」  おそるおそる佐貫は尋《たず》ねた。裕生は首を振った。 「違うと思う。『契約者』の影《かげ》に戻っただけだよ」  それから悲しげに付け加えた。 「……またいつか襲《おそ》って来る」
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